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連載小説-5

第5話 そこに南風が吹く未来の証明。

sub tittle 「中田実星」
 オレはそれから、一週間ぶりに家を出た。体が鈍りきったとき特有の、筋肉のだらけた感じがたまらなくいやだった。短距離ランナーだが、たまには長距離を走ってみるのも悪くない。
 ペースはぎりぎりまで上げることにした。走っている間に無駄なことを考えないように。コースは特に決めていないが、編入する学校まで果たしてどれくらいの距離なのか体で感じてみたい気持ちもある。きっとその学校の近くまで走ることになるだろう。
 編入することになった学校は学区の隅に位置し、政令指定都市の中でも最上級に地味な仙台の一番辺ぴな場所と言えるかもしれない。この距離なら毎朝電車通いになる。今まではチャリを飛ばして10分ほどだったというのに、どう少なく見積もっても通学に30分程度は必要な場所だった。

 ペースをかなり上げて走ったのでもっと、体がくたくたになると思っていたが、想像を超えて体は軽かった。久しぶりの有酸素運動によって体内に循環する酸素と呼応して筋肉がはしゃいでいる。なにせ一週間ぶりだ。こんなに走らなかったのは陸上を初めてからの七年間たった一度もなかったはずである。走るという行為にとりわけ情熱を燃やしていたわけでもなかったのだが、手放すとなるとやはり寂しい。
 面接の時、車で学校まで向かった。そのとき、オレは運転する父と会話することもなく、更に言えば視線を合わせることもなかった。だから、外の景色は妙に覚えている。
 オレは何かを覚えていようとしていた。何かを覚えれば何かを忘れるのは人間の性らしく、世界史の勉強で既に実証済みであった。
 例えば車のエンジン音。ウィンカーの音。窓に加えられる微細な振動。対向車に乗っていた人の表情。しかし、あのとき必死に覚えようとしたはずなのに、どうしてか一切記憶に残ってない。ただオレの浅はかな思考だけが風化して残っている。

 オレはそろそろ苦しくなってきた胸を落ち着かせるように、ついに足を止め、大きく息を吸った。
 決して、おいしい空気ではないと思う。田舎だからといって、周りはアスファルトの灰色ばかりである。だが、何故か田舎の匂いがしなくもない。なぜだろう。周りを探ってみると、答えはすぐに見つかった。近くに仏壇屋があったのだ。この芳香は線香の香りだ。

「仏壇なんて、売ってるところ。マジであるのか」

 周りにも人が居ないことを確認した上でオレは一人、吐露する。
 周りを見渡すと大型な店ばかりだ。大型の布団販売店。大型の洋服店。街でも見かけるチェーンの安価イタリアレストラン。そして――ゲームセンター。
 ゲーセンがここにあっても、来る人は殆どいないだろうな。しかし、仏壇の目の前にゲーセンってどんな配置だよ。少しは考えればいいのに。
 息は切れていた。正直長距離は死んでも無理だと思う。
 久しぶりに酷使することになった体の節々にしばしの安寧を与えるべく、オレはコンビニを探していた。だが見つからない。家具につりざお、布団に仏壇などなど。正直どうでもいいものばかりが軒並みならんでるのに、なぜコンビニがないのだろうか。おかしいぜ、絶対。
 仕方がないので、オレは少々息が絶え絶えで少し気恥ずかしい気もするけど、ゲーセンの店内に入ることにした。
 さすがゲーセンと名乗るだけのものはある。この騒がしすぎる電子音の応酬や充満するタバコの臭いはどこに行っても共通らしい。でも、オレがいつも行っているようなゲーセンとは少し毛色が違う。人に満ち溢れていない。人の熱気で充満しまくって上がった体感温度を冷房で思い切り冷やしているような、そんな様子とは一切無縁みたいだ。

「お、お兄ちゃん。コインかい?」

 ゲーセンの従業員らしく、黒のズボンに白のシャツを着た男の人が両替機の前でにっこりとしていた。

「初めて見る顔だね」

 ゲーセンに初めて見る顔も見たことある顔もなかろうに。逆に見覚えのある顔ってのは万引きでもやらかした人間なんじゃないか。

「今ね。コインゲームにビッグチャンスが来そうなんだよ。どうだい、やってみないか?」

 朗らかでタバコの臭いのしない青年さんは、人懐っこい笑顔でオレのことを見ていた。オレは無邪気な笑顔になぜか焦心に駆られて、

「すみません。ちょっと見てから遊んでみますね」

 適当なことを言ったものであるが、理由は他にあって単に金がないのだ。ちょっと気楽に遊べる程度の小銭がない。一応ポケットの財布には二千円が入ってはいるが、これら千円札を両替機にかければ、金が見る見る飛んでいくのは自明で、遊ぶつもりはさらさらなかった。そもそも一人でゲーセンほどつまらないものはない。カラオケならまだ練習になるが、ゲーセンの練習をしてどうするんだ。もっとも今月は小遣いもカットされていたしな。
 そうだ。どこかにベンチでもないか。ベンチでしばらく座って休んだら、また走り出すことにしよう。
 便宜を図ったように、オレの視線の先。UFOキャッチャーが並んでいる辺りに、木製だがワックスでピカピカと光るベンチがあった。休日だが、人影はまばらだ。荒い息を整える環境にはもってこいだろう。
 とりあえずベンチに座り込み、子供の夢の世界をショーウィンドウに濃縮したようなUFOキャッチャーがピコピコと安っぽい音を立てているのを観察していると、UFOキャッチャーをしにきたのか、一人の少女がやってきた。いや、少女というのは言いすぎだ。どうだろう。ベンチの配置上、後姿しか見えないが制服姿だ。中学生の制服ではないから、高校。それも、街の高校生がこんな辺ぴなところで遊ぶわけがないから、地元の高校だろう。となると、オレが入る高校の生徒なのかもしれない。制服くらいチェックしておくべきだった。
 一応転入する高校で、この学校にどんな女子がいるのか少し興味もあったから、オレは周囲から不審に見られない程度に、相手の女子に気づかれない程度に、この女子を観察することにした。しかし、制服でゲーセンに来るってのはすごいな。地元だから許されるのか?

 と、地元ゲーセンの特異性について考えながら、彼女のことを観察しているとさっきの男の人が彼女を見つけて、どうやら本当に知っている顔らしく、談笑を始めていた。

 彼女と店員さんの楽しそうな声が、ここまで届いてくる。この女の子の声はキレイでかわいらしい。もう既に散り始めているが、彼女の声は桜の花を連想する。透明で瑞々しいパールピンク。気づかない間に、このキレイな声が胸に圧力をかけてくるのを感じた。
 と。オレは自らの思考形態に驚き、呆れもした。自虐気味にため息をつく。たった一週間だ。たった一週間でこんな初恋病原菌を胸で繁殖させた小学生みたいな思考回路が復活するのか。女子と話すとき「こういうことを言ったら、オレのこと好きになってくれるかな」くらいまで考えてたような狡猾なオレはもうどこかへ行ってしまったらしい。

「アームが緩いんじゃない?」
「実星ちゃんが下手なんだよ」
「いや、違うわ。絶対アームが緩いのよ! あたしこんな下手っぴじゃないもの」
「よく言うよ。機械音痴なのに」

 よくある話だ。アームが緩いせいで大きい景品を狙うと大損のUFOキャッチャー。そういうUFOキャッチャーはどうやっても利益にはなりえないので、一回試してダメだと感じたら諦めるのが結構大切な要素になる。それに、こんなくだらないミニゲームなんかで千円も使うくらいなら、ディズニーストアで小さなミッキーのぬいぐるみを買ったほうがマシってもんだ。
 オレは店員の前で堂々と不平をたらせる彼女の度胸に感服し、同調していた。

「あたしのせい?」
「そ。プレーヤーの腕次第さ」

 青年さんは彼女の茶色い髪に手をやって、あしらうように言った。

「くそーっ! インチキ」

 その女子は悔しそうに、プラスチックのウィンドウを叩く。分かりやすいヤツだ。悔しがる彼女の声もまたキレイだった。
 変に上ずってもいないし、わざとらしさも感じない。三流歌手の贋作のような声でもない。
 こうなってくると、いよいよ彼女の顔立ちが気になってくる。だが、彼女は背後に座るオレのことを振り向いてくる様子は金輪際ない。だからオレは彼女の後姿から想像するしかないのである。
 だが、女子の後姿というのはけっこう誰でも様になってるものであって、制服の後姿というのはかわいさにプラス査定が入り込むのだ。そういえば街で制服を着た女子の後姿を見て、顔を想像するというのはオレもよく男友達とやった。ここで、振り向いた顔がショッキングだったり、まぁ妥当だったり、予想外だったりすることを話の肴にマックで語り合う。これが案外面白いもんなんだ。これだけで一日つぶせる。時間はいくらあっても足りず、あまることなんて到底ありえない。
 さて。まだこの子の表情を見てないな。どんな顔をしてるんだ。
 美人か? そうだったらいいなと思いつつ……いや、そんな妄想は中二の思考形態だ。はっきりいって病気だ。初見の女の子をかわいいと思える割合なんて、せいぜい家に帰ってから勉強をしようと考えて実際行動に移される程度である。

 彼女がこっちの方を振り向いてこないかな、なんて考えながら、彼女のことを観察して、早くも十分。
 十分も経過したというのに、集中力(と経済力)が高いらしい彼女はいまだ機器の前で粘ってがぬいぐるみの一つも取れてない。これほどプレイすれば慣れるか諦めるか、どちらかになりそうなものなんだが。
 遠くからでも分かる。この子は下手くそだ。ホント見てられないほどに。

「諦めるとかしねぇの? おまいさん」

 オレは力なく立ち上がり、彼女に話しかけていた。
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by: * 2007/12/26 17:54 * [ 編集] | UP↑

「おまいさん」と「ばっきゃろ」は彼の口癖なんですね。
すみません、田舎育ちな者ですからー(汗

この前フツーに方言を小説にいれちゃって。
彼は田舎育ちですから、田舎っぽくていいんじゃないですかねww
言い訳です。

ピカットが「おまいさん」を使ってるわけじゃないですけどねー。
田舎の訛り方はやっぱ尋常じゃないです。ピカットに会ったら、多分わかんないですよ。東北人じゃないと。
by: ピカット * 2008/01/03 22:22 * URL [ 編集] | UP↑















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