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連載小説-9

連載小説-9
第9話 そこに南風が吹く未来の証明。

sub tittle 「あれ、キレイ?」
 幾許か前に女子をこんな冷めた目で観察するようになったかというと、それはたぶん数ヶ月前のことである。思い出すだけで腹が立つ。自分にも、彼女にも。

「長澤くん、それアイス食べてる顔じゃないよー」
「それ言えてる」

 相島の声と高積の声がユニゾンを奏で、その声によってオレは我に帰った。まったく、本当に嫌な思い出ってのは残るもんなんだな。さっさと忘れたいのに。

「考え事してた」
「考え事なんかしなそうだけどな。お前って」
「そうかい?」

 オレはどちらかというとTPOに関わらずいつも小難しい顔をして、誰かにとがめられるようなタイプだと思うのだが違うのか。
 オレがそう言うと、高積は少し困ったような顔をした。

「ま。いいけど」

 高積はニヒルに笑った。
 三分ほどアイスを食べ続けているとそろそろ口の中が飽和状態となってくる。目前に置かれたライトブルーのガラスカップ。カップの淵よりよっぽど高い位置にアイスクリームの頂点がある。つまり許容量以上に大きなアイスが盛られている。さすがに多い。
 オレは高積を見た。食べるスピードがほぼ同じだから、高積のカップに盛られている量は目前の量とさほど変わらない。続いて相島。意外なことに彼女が食べるスピードはオレたちより遥かに速く、だから彼女のカップの底がそろそろ見えてきている。

「長澤くん、実星のことなんだけどねー」

 もはや、溶けゆくアイスと時間を争わずに済む彼女の口ぶりはいつもよりよっぽどのうのうとしていた。

「何?」

 舌が冷たくて、上手く呂律が回らない。

「今日実星に会いに行かない?」
「と、いいますと?」

 オレが聞き返すと、相島は路傍に500円硬貨を見たような顔になり、そんな不器用な表情を見るとなんとなく安心する。完成したものを見るより、よっぽど楽しい。

「あんね――うーん、やっぱり秘密にしとこっか?」

 すぐにその表情は高積へと向けられた。最初から高積への笑顔のつもりだったのかもしれない。

「まあいずれ分かるし」

 高積の言い方は驚くほどさっぱりしていた。ガラガラ声のくせに、口調がさわやかなので聞きづらさがない。表情も柔らかい。オレと違って意思伝達が上手そうヤツである。

「実星ね、ここでアルバイトしてるの」

 せめてものヒントのつもりなのか、それとも一瞬流れそうになった沈黙を嫌ったのか。相島は口を開いた。

「なんのアルバイト?」
「なんでしょう?」

 クイズ番組の司会のように、媚とどこか皮肉が入った声だった。眉間に皺を寄せて生真面目そうな顔をしてみせ、実際にも考えてみたけれど、結局それらしい思い付きは生まれてこない。

「分かるわけないっしょ」

 オレが笑うと、相島は声を出して笑い、

「それでいいんだよ。長澤くん。サプライズはやっぱりそうでなくっちゃ」

 相島と高積は女子中学生のように顔を見合わせ、きわめて大人っぽい表情で相好を崩した。


 サプライズの理由はすぐに分かった。エスカレーター近くの大広場には席が設けられていて、ステレオなどの音響施設があり、左右対称となる特設ステージのちょうどど真ん中に大きな看板「みほ・生LIVE」が垂れ下がっている。

「実星はね、歌手さんなのよ」
「へぇー。デビューはしてるの?」
「うーん、どうなんだろ」
「デビューの定義をCDを出すことにしたら無いでしょ」

 高積がフォローした。あまりに素早くピンポイントな指摘だったので、相島は少し面食らったように二度ほど首を縦に振った。その動きはちょっぴり堅かった。

「そうそう、そういうこと」
「ふーん、地元の星ってことか」
「そうだね」

 高積は英語の教科書でも諳んじるような堅い口調で続けた。

「地元の星で終わるのかどうかは――長澤にだって、聞けばわかるよ」
「そんなにすごいのか」

 高積は深く頷いて、特設ステージとそれに伴って設けられた約100席ほどの観客席に腰掛ける。彼の言葉を肯定するように、用意された席の四分の三程度はすでに埋まっており、オレたちは後ろの席以外に座る場所がなかった。

「もう少し早く来ればよかったね」

 相島がふっと漏らしたが、

「あまり前過ぎても歌いづらいと思うし」

 相島も小さな吐息と一緒に腰掛けた。高積が先に座ってくれたおかげでオレが座るべき席は必然的に相島の隣だ。高積はなんというか。妙な力感がないよな。UFOキャッチャーのときもそうだった。相島ほどかわいい女子が隣に居たら相手に合わせようとかそういうことがありそうなもんだが。彼はずいぶんとナチュラルでいるように思える。
 オレは腕時計を見た。その動作を見た相島が気を利かせて、

「あと十分くらいだよ」

 オレに向かって笑顔を形作る。その表情からは相変わらずのアルデンテ。
 それからしばらく相島のことを見ていたが、なぜか相島と視線が合うことなく、彼女はケータイをいじりはじめた。話すことはいくらでもある。この場なら音楽の話題を持ち出しても不自然になることはないだろうし、ケータイの機種についてまったく普遍的で形式的な会話を交わすのも悪くない。だが、オレは話しかけなかった。
 いくつか理由はあるが、単純に買い物に疲れたということもある。仙台に出かけることも多かったから、買い物には慣れていたはずだったんだけどな。なぜだろう、今日は妙に疲れていた。そういえば誰かと一緒に歩くのは久しぶりだった。
 相島に話しかけなかった分、人の流ればかり気にしていた。客は相変わらず多いし、オレたちが座ってからもどんどん入ってきている。ついに席はすべて埋まった。実は前から中田と一回カラオケにでも行きたいな、と思ってたんだ。あの声はとても魅力的だから。それに、ここまで客が多いとなると。湿気以外の何かが胸を熱くするのが分かった。

「けっこう人気なのよ?」
「いつもこんなに入ってるのか?」
「そうだねー、これはまだ少ないほうかな。もっと入ると思うよ」

 中田が出てきたのは時間より一分遅れてのことだった。もしかしてオレの腕時計が壊れているのかもしれないと思って、ケータイの電波時計でも確認したが間違いない。
 彼女は学校の制服にフォークギターを持って登場した。その姿はなかなか様になっているように見える。なんだろう、恐ろしいほど目立つヤツだ。そしてそのイメージはどことなく華やかだ。それがなぜなのかはよく分からない。造詣は端整と言えなくもないが(間違っても華やかではない)そのイメージはあの声があってこその気もするし――つまり、まだ口を開いていない彼女は一介の女子高生でしかないはずなのだが。それに今日の中田はなんかキレイ? そんな気がした
 彼女はマイクの前に立つと、マイク台をやや下げて、それから思い切りの笑顔を作った。

「たくさんの皆さん、こんにちは。中田実星といいます。えーっと、初めまして…の人も今回は多いみたいですね」

 中田は観客を大きな動作で一瞥し、その一瞬でオレと視線が合ったような気がするのだが、彼女はそんなそぶりも見せずに、笑顔を面に出したまま、小さく頷く。

「前一列の方はいつもありがとうございます。さすがにもう覚えちゃいました。あ、今日は若い人が多いですねー」

 別にそれは前一列を陣取る推定四十代の彼女らへの嫌味というわけではなく、ご母堂の子供たちへの言葉だったようだ。

「最初の曲を」

 中田がマイクに向かって、息を吐くように言うと、空気が一気に静まり返った。

「翼をください、です。お聞きください」
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こんにちは~
おお、早速の(というか私のチェックが遅いんだけど)更新うれすぃ~!
実星ちゃんのライブ始まりましたねえ!
三人の会話がちょっとぎこちない雰囲気の時にこの展開、ピカットさんうまいなあ……
それに地の文の、
「その表情からは相変わらずのアルデンテ。」
は、短い言葉なのに凄く微妙な硬さが伝わってきます。
次回の更新のキモは、実星ちゃんの歌声の描写ですか?! 
楽しみに待ってますね~!
by: 月夜ノ蝙蝠丸 * 2008/06/25 10:19 * URL [ 編集] | UP↑

テスト休みなピカットです。
いま起きてきましたーっ。結構乗ってきたので、そろそろ勢いをつけて更新していきたいと思ってます。つか、今までが遅すぎたんですよね。
年内完結を目指しますっ!

いつも感想ありがとうございます。
ピカットにはもったいないくらいのお言葉です。
感想をバネにがんばって行きたいと思いますねっ!
by: ピカット * 2008/06/25 13:07 * URL [ 編集] | UP↑















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