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連載小説-7

第7話 そこに南風が吹く未来の証明。

sub tittle 「相島青葉」
2007年 5月

 五月の初め。ゴールデンウィークの前に行われることになっていたテストは春季実力テストと称され、どう考えても体育祭の意気込みを少しでもそいでやろうという教師の意図が見え隠れしている。
 と、オレは残り30分ほどあるのに既に二度も見直しを終えてしまった答案をひっくり返し、小さくため息をついた。手ごたえが無い、なんてもんじゃない。オレのことをバカにしてるのかというほど、脆弱な計算問題集だった。最後の大問はどうやら製作者が差をつけに来ている問題らしく、因数分解に三角比を絡めたやや複雑なつくりになっているが、これも三角比の基本性質を冷静に考えれば小学生レベルの計算問題になる。
 皆が懸命にペンを走らせている音の中、黒板を眺めていたり、居眠りできたりするのは久しぶりに味わった圧倒的な優越感だった。
 悪いな先生。この程度の問題じゃ、オレを倒すなんて不可能さ。
 暇なので、テストをロールプレイングの中ボスあたりと仮定して、オレはちょっとしたキメ台詞を吐いた。って、こんなことしてるとアホみたいだ、やめよっと。

 このテストを片付ければ体育祭というイベントが控えている。前の学校であったことなんてもう忘れちまえ。この学校のヤツらがあの事件を知ってるとは思えないし、昔からの知り合いも居ない。純粋にこの学校を楽しめばいいんだ。一応16歳。青春を謳歌する権利くらい主張したっていいはずだろ。だから、久しぶりに球技大会は羽を伸ばそう。思いっきりやってやろうじゃないの。


 さて、体育祭をあさってに控えた今日。今しがた帰ってきた実力テストの答案は自分でも見たことのないような点数だった。どう考えても、採点が甘い。何かちょっとしたミスでも点数を落としてやろうとする採点者側の意地が見えないし、単純な計算問題の配点が意外に高かったりする。

「アンタは何点だった?」

 後ろの席の中田がニヤリとしていた。
 この表情はどの高校にもあるんだな。自信にあふれた、まるで自分がコイツに負けているはずのない、と言わんばかりの表情。
 だが。今回その可能性は無に等しい。

「ふーん、オレに勝とうっての?」
「そうよ」

 なぜなら――。このテストでオレを上回る点数を取るのは先生の問題製作上になんらかのミスがなければ、100%不可能だからである。

「アンタ、どうせ転校の身でしょ? 頭悪くて当然当然。そういや、アホ面してるもんね」
「アホ面で悪いかったな」

 点数を見せた暁には、必ず中田をアホ面と罵ってやることにした。見てやがれ。

「じゃじゃーん。あたし95点」

 語尾に音符マークをつけたような、 ギンギラギンの太陽のように眩しい笑顔をして、二問程度しか誤答のないピカピカの答案用紙をオレの前に差し出した。この声には相変わらず感心する。歌手でもやってるんじゃあるまいか。

「アンタはどうなのよ?」

 けっ。いかにも自信有り気な表情だな。そりゃそうだ、95点ほど取ってたら普通負けることは考えないだろ。
 オレは自分の胸に秘められた加虐精神の強さに少し驚きながらも、

「五点」

 オレは五本指を全て立てた状態の手を中田の前に誇示した。

「なに? 五点しか取れなかったってこと?」

 アホ、んなわけあるか。オレのはその点数よりも五点多いってことなんだよ。

「ばーっきゃろ」

 頬が弛緩しっぱなしになるのを感じた。

「じゃじゃーん」

 オレは中田の声色をまねて、かつ示威的に彼女と同じ動作で、オレはオレの答案用紙を中田の目の前に差し出した。
 オレは笑い飛ばす。背後からの奇襲を受けた敗残兵のような表情を豪快に見せてくれた中田は、オレの視線に気がつくと口をへの字に結んで言った。

「…なんのカンニング?」

 あぁ、思ったとおりのリアクションだ。これこそオレが求めてたリアクションである。

「どうだ、参ったか」
「……っウソだっ! 絶対こんなの何かのマグレだわ。ホントは10点なのに丸を一個書き足したとか、そんな類のものでしょ?」
「あら、オレが前居た学校を知らないの?」
「どこよ」

 オレは前の学校名を話してやる。すろと、バリエーション豊かな中田の表情に悔しさがにじんで、徐々に口の形が歪んでいく。

「へぇー。長澤くん頭いいんだぁー」

 中田に構いすぎていて、オレは背後から迫っていたクラス女子の存在に気が付かなかった。オレが気づいて振り返ったときには、相島青葉の視線は既におおっぴらに開かれたオレの答案用紙とがっちり結ばれており、視線の送り主は華やいだ笑顔を浮かべていた。変にやりすぎるとウザいかなと思って、中田にしか見せるつもりはなかったんだが、覗き込まれてしまった分は仕方があるまい。
 オレはそそくさとB5用紙をウラが表になるようたたんで、机の中へ放り込んだ。

「そう? ありがと」
「ううん、別に思ったことを言っただけだからー。私がありがとって言われることじゃないよ」

 それから相島青葉はすぐに中田実星へ近づいて、いかにも親しげに一言か二言小声で喋ってから、オレの顔を見てきた。オレは座っているから立っている相島のほうが大きいのはあたりまえのことなのだが、それを差し引いても彼女はかなり大きい。170cmくらいだと言っていた。だが、スラリという言葉はあまり似合わず、女っぽさを感じるよりも前にその筋肉のほうが際立つ子だった。身長は170cmくらい。
 女子の平均身長なんかを正確に覚えているほどオレは数字に慣れ親しんではいないが、どう控えめに考えたって彼女の身長は大きいほうだろう。背の順で並ぶと必ず腰に手を当てる役だったオレとは違って、ずっと後ろのほうだったんだろうなぁ。うらやましい限りだ。

「そうか?」
「そうだよー」

 端整な造詣は前髪を後ろに上げていて、体格に似合わぬ小さなおでこを見せている。いかにも運動部という感じで、見てて健やかである。彼女の呼気を調べてみればきっと、二酸化炭素よりも多くのマイナスイオンが検出されることだろう。

「でも、長澤くんが転校してきた理由がわかんないなぁ。これじゃあ私の学年順位が1つ下がっちゃう」

 いきなり核心をつかれて、極端に驚いた動作をしてやるほどオレは愚直な人間ではない。どちらかというとひねくれ人間を自負している。あ、こういうとき、自負って言わないか。

「そんなことないよ。相島はすっごい勉強できそうだもの」

 オレは声が上ずり加減になるのを感じた。笑いたきゃ笑え。

「あら」

 中田が会話に割り込んでくる。彼女は機嫌を取り戻したのか、彼女の顔には絶対的な笑顔が浮かんでいた。

「青葉に対してのときと、あたしのときの対応とぜんぜん違うのね。アンタ」

 相島の容姿に多かれ少なかれ惹かれていたのは事実だった。
 残念ながら全くその通りなので、返す言葉もなくオレが彼女の前でみっともなく狼狽していると、相島さんはオレに助け舟を出してくれた

「そーやって、すぐに男子をからかうんだからー」

 そのとき彼女はテヌート気味な語尾に加えて、南極の氷さえも溶かしてしまいそうな暖かな笑みを惜しみ無く浮かべていた。


 相島青葉と言う子はそれほど活発には見えないが、それほどおとなしいようにも見えない。これといって気張っているタイプではないが、特徴がないのかというとそうでもないし。見たところ、あまり自己主張をしない子で、中田がテストについての愚痴を連発しているというのに、彼女は完全に受けに回り、だけれど中田が求めれば自身も愚痴をこぼしてやり、中田の気分が悪くならないようにしているようだ。見ていると、そのタイミングは実に絶妙で、聞き手としては既に完成されているような感じを受ける。
 進学校にいると、やけに皆自分のことばかり喋りたがるので、こういう子を見るのは偉く久しぶりだった。その分やけに新鮮に見えもした。

「長澤くんってさー。頭良いんだよねー」

 相島がついぞ返却されたテストの点数について切り出した。
 隣で座っている中田が小さく舌打ちをし、目を剥くのを尻目に、オレはその話題にとても不真面目な回答を差し上げた。

「勉強教えてあげましょーか? 一日3時間で500円っ! 5時間なら600円! 超値打ち価格!」
「うーん」

 彼女は健気にも少し考えてくれたらしいが、

「私は別に間に合ってるかなぁー」

 常識的に考えて、当然の答えを返してくださった。もちろん期待してなかったから、落胆もしない。

「バカ。青葉には陸上があるから。今んとこはガリガリ勉強しなくたっていいのよ」

 中田はさっきせっかく取り戻したはずの機嫌をなぜかまた一段と悪そうにしていた。さっきまでの間で誰かに何かをされたわけでもなし、もちろんオレが何かちょっかいをかけたわけでもないというのに。
 この機嫌のアップダウンは一体なんなんだろう。
 って、ん? 陸上?

 陸上という言葉にオレの体がピクリと反応する。続けるかどうかは全くの未定だが、一応、元スプリンターだったらしいというのは体が覚えてくれているみたいだ。

「勉強しなくていいとはぜんぜん思ってないけど」

 相島はあらかじめ前置きをしてから、すみれのような鮮やかに笑みを浮かべる。キラキラというSEが流れてきそうだ。

「へぇ、相島は陸上部なの?」

 オレはあえてぼかした言い方をした。あまりがっついていると思われたくなかったもんでな。

「うん。まぁね」

 相島はなぜかずいぶんと謙遜しているように聞こえた。ということは、やはりこの子はかなりすごい結果を残した選手なのかもしれない。

「ジュニアオリンピック優勝。中総体全国一位。どう考えてもエースでしょ?」

 説明された成績はあまりにも眩しかった。

「ま、マジ?」

 と。なぜ当の本人よりも中田のほうが得意げなのかという議題はいつかテストで時間が余ったときにでも考えることとするとしても、その結果には驚かざるを得ない。陸上経験者どうこうと言う前に、これに驚かなきゃおかしい。

「何の競技?」

 オレは思わず声のトーンを上げていた。

「走り高跳びだよ」
「そっかぁ。すごいねお前さんって」

 彼女の健康的な肌の色にやや朱色が混じる。不意にオレの胸へ衝撃が走った。かわいい、かわいすぎる。今までの人生の中で、これほど人間をかわいいと感じたのは初めてだ。今オレは定期テストが終わった際の感動と比較して約59倍ほどの感動を味わっている。だが、この感動にふさわしいほど修辞的な表現をオレの頭は持ち合わせていないのが、残念、至極残念である。もしオレが村上春樹だったとしたら、世界は万人が涙する比喩表現と邂逅したかもしれないのに。

「でも、あなたも長澤渚くんでしょ」

 相島は突然オレのことをその手で指差した。そりゃそうだ、オレは長澤渚以外の何者でもあるまい。と、野暮なことを考えるオレではない。
 いくら陸上選手が多いといったって、有名な選手くらいは知っている。恐らくそれで彼女もオレのことを知っているのだろう。
 そういえば、オレたちが中三だったときの中総体で優勝したのは宮城の女子だったと聞いていた。二年前のことだから、もう名前なんかは覚えていなかったが。よもや、こんなところで会えるとは。

「私、最初に名前聞いたときから『あっ! 長澤だぁーっ!』って密かに感動してたの。噂は聞いてるよ。ホント、速いねー。新人大会でも見てました」

 オレはこの学校に編入してきて早々に、この世で一番の喜びを発見してしまったらしい。くぅーっ! たまらん。実にたまらん。と、酔っ払ったセクハラオヤジみたいな思考が本気でオレの脳内を侵食してきていた。危ないな、こりゃ。 

「それでねー。ウチの陸上部、今部員が居なくてピンチなの。いまなら絶対エースになれるから、陸上部入んない? 楽しいとおもうなー。ホント楽しいと思うなー」

 ええ、ええ。入りましょ、入りましょ。こんな美人と一緒にいる機会が出来るならオレはそれだけで満足だね。

「そうだなぁ。考えて――」
「だーめっ!」

 いきなり中田の大声が飛んだ。大声だというのに、耳に心地よい響きなのはもはや神秘と形容していいレベルだな。

「青葉に近づこうったって、あたしが許さないんだからっ!」

 またお前か。

「……ふぅ。なんでお前がそんなムキになるのさ」
「どうでもいいから、あたしの青葉に手を出すなーっ!」
「なんだそら」

 そういえば、走ってもいないのにオレの胸はフル稼働しており、そろそろ悲鳴をあげそうな気色である。オレは胸の高まりを隠すために大きなため息を吐き出して、この小憎たらしい中田の方をジロリと睨む。

 中田がオレを睨む。

 オレが中田を睨み返す。

 睨み返された中田は視線の強度を倍にしてオレへ返す。

 オレは中田へ視線を…返さなかった。

「もう、なんでそんな怒ってるんだよ。もう」
「あたしが怒ってるように見える?」
「見えるっつの。どーみても」

 オレは二人の間に流れている弁舌しがたき塩辛い空気を緩和すべく、一つの話題を提供することにした。

「とかいう、お前はどうなのさ?」
「何が?」

 主語も足りないしどちらかと言うと述語も重要な部分が欠落していたようだ。ちょっと不親切だったかもしれない。オレは直接的な言葉に言い換えた。

「恋人とか居るの? もしくは過去オア未来」

 中田の大きな目がもっと大きくなる。息を呑む音が聞こえたような気もしたが、それはオレの勘違いかもしれない。

「居ないに決まってるでしょ? それともなに、それプロポーズの言葉って取っていいの? それなら先に断っておくわ。めんどくさい」
「けっ! 誰がお前なんかに」

 それから中田の拳がオレに飛んできた。どうやら、コイツの前で恋愛話はタブーらしいな。この子を安定して扱うようになれるのは相当先になりそうだ。
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こんにちは~

「相島」出ましたねえ~(パチパチパチ)。
意外と背が高いんですね。女の子で170あると、ちょっと大きすぎかなあ…モデルみたいにキマッてる感じかしら。
それにしても実星の過去はなんだろう…気になります~~

あ、少し気がついた点がふたつ。

最初から6行目の 「大問は…」 というのは、大問題は、かな? それとも難問かな…
それに、半ばぐらいの「SE」というのが解らなかったです。略さないでカタカナで書くとか、「SEというのは…」などと簡単に触れておくといいかもしれませんね。

陸上部に入るのか、渚君?!
次回も期待してます(^^)!
by: 月夜ノ蝙蝠丸 * 2008/01/22 18:20 * URL [ 編集] | UP↑

二つとも、ある種の専門用語ですもんね。分かりづらいかもしれなかったです。

>SE

これは文化祭とかやってた人とかなら分かるかもしれないです。ピカットは文化祭委員だったものですから、ちょっと使っちゃいました。
愚直に辞書を引くと「映画・放送の音響効果。擬音を用いる演出。」とあります。「キラキラキラーっ!」とか「すうー」とか「ザァァァ」とか「どんぶらこ、どんぶらこ」とか。多分こんな感じです。
S(サウンド)E(エフェクト)の略なのだと思われます。

>大問

こっちは学生用語ですね、現文(現代文)やⅠA(数学Ⅰ・数学A)みたいなのと同じ感じで、おおよそ小問題の集合のことを指します。
彼らは当然のように学生ですから、このことは常識であり
「わざわざ地の文で説明するのもまどろっこしいかなぁー。まぁ雰囲気くらいは分かるだろ」
というピカットの軽率な判断でこのような言葉を選びました。

とはいえ、このような単語を使用して相手に伝わらないのでは、本末転倒ですから、今後このような表現を使用する際は何かしらの工夫をしていきたいと思います。
アドバイス、本当にありがとうございました。


個人的に、一番やりにくかった回なのですが、このように感想をいただけると本当に大きな活力になりますー(TдT)

実星の過去に触れる機会はずーっと先になるかと思いますが話の核心ですので、この話は暖めていこうかな、と。


相島は個人的にピカットが一番といっていいほど動かしやすい子なので、登場させられて嬉しいです。
身長170cmは大きいです。渚の身長も170くらいのつもりなので、身長は男の渚とほぼ同じとかいうカオス。
ちなみに実星は160cmくらいの平均身長ですねー。
相島はスラーっとしてる感じというよりはグッと横にも縦にもがっちりしてるタイプです。

以上、どうでもいいウラ設定でした。
長々と話してすみません。

こらからネコさんを見にそちらのブログにも伺いますwww

ではっ!
by: ピカット * 2008/01/22 23:09 * URL [ 編集] | UP↑















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